■歴史教科書――検定の行方を注視する
「新しい歴史教科書をつくる会」の主導でつくられた2002年度版の中学歴史教科書が、文部科学省の検定に合格する可能性が高まってきた。
そのことを懸念するのは、中国や韓国から強い反発が出ているからではない。教科書づくりに中心的役割を果たしている「つくる会」のメンバーらのこれまでの主張が、あまりにバランスに欠けていると思うからだ。
彼らはその著書などで、「戦後の歴史教育は、日本を否定的にとらえるマルクス主義史観と東京裁判史観に支配されてきた。その自虐史観を克服しなくてはならない」と主張してきた。
1910年の韓国併合は「当時としては、むしろそうならなかったら不思議といわれそうな、世界からは当然と見られた措置であったとさえいえる」と位置づける。
太平洋戦争のことは大東亜戦争と呼び、「400年間のアングロサクソンによる支配と束縛から東洋民族を解放するための『開戦』を待望する声は高まっていた」など独自の見解を展開している。
文部科学省に提出され、検定を受けている教科書の内容は公表されていない。検定の過程では多くの修正を求める意見がつけられており、最終的にどういう表現で決着するかも明確ではない。
だが同省は、どの教科書でも、歴史的な事実関係の誤りなどがない限り合格させる方針という。そうなれば、「つくる会」が主導した教科書には、中心メンバーのこれまでの主張が色濃く反映されるだろう。
「自虐史観」などと攻撃し、過去の植民地支配や戦争を肯定的にとらえようとする。それは、当時の日本の国民の苦しみや、侵略を受けた人たちを無視した一方的な解釈である。こういう歴史観を教室で教えることが、次代を担う子どもたちのために本当によいことなのだろうか。疑問を禁じえない。
政治が混迷し、経済も低迷している日本はいま一種の自信喪失状態、閉そく状況に陥っている。過去を美化する歴史観の誘惑にかられやすい空気があるともいえるだろう。
だが苦しいときこそ、たどってきた道を虚心に振り返るべきだ。自己正当化の過ぎた歴史観は、国内的にも対外的にも無用のあつれきを生むだけだ。まして教育の場に混乱を持ち込んではならない。
この教科書をめぐっては、学者グループが「神話を歴史的事実のように記述し、非科学的だ」などと批判したのに対し、「つくる会」理事は「試験中に他人の答案用紙をのぞき込むようなまねはやめるべきだ」と反論するなど、論議が起きている。
こんなことになる要因の一つは、検定作業が密室で行われるためだ。
教科書検定の意義を一概には否定しない。「教育内容の維持」や「教育の中立性の確保」は確かに必要なことであろう。
しかし、検定制度やその運用については、まだまだ改善すべき点が多い。とりわけ検定の過程も含めた情報を、できるかぎり公開する努力が必要である。
<2月22日朝日新聞社説>
主張 検定に圧力を加えるのか 【朝日「社説」】
朝日新聞が二十一日付一面の教科書報道に続いて、二十二日付社説でも検定中の特定教科書を批判した。暗に検定不合格を期待するような内容であり、二十一日付の記事と同様、ルール違反の疑いが強い。
朝日社説は「検定の行方を注視する」という見出しで、「検定を受けている教科書の内容は公表されていない」としながら、この中学歴史教科書の執筆に加わっている「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーらの主張について「あまりにバランスに欠けている」「当時の日本の国民の苦しみや、侵略を受けた人たちを無視した一方的な解釈」などと書いている。
検定中の白表紙本の内容には触れず、執筆者らの歴史観を批判する書き方をしているが、近く最終合否を決める教科書検定調査審議会の審議に予断を与える危険性があることに変わりはない。検定制度の趣旨を逸脱した論評だと言わざるを得ない。
朝日社説は「検定作業が密室で行われる」とも批判し、情報公開を求めている。しかし、検定中に白表紙本の内容も含めた情報公開が行われた場合、公正な合否の審議が期待できるだろうか。否である。内外マスコミがさまざまな論評を行い、冷静な判断ができる状況ではなくなるだろう。
したがって「検定中の情報公開」には賛成できない。ただし、検定が済んだ後は、情報公開が必要だろう。以前は、検定後も白表紙本が公開されなかったが、今は教科書研究センターなどで白表紙本と検定後の見本本を比較し、検定でどこがどう変わったかを調べることができる。適正な情報公開は、むしろ進んでいるといえる。
また批判対象の教科書について、朝日社説は「検定に合格する可能性が高まってきた」としたうえで、「そのことを懸念するのは、中国や韓国から強い反発が出ているからではない」と弁明している。しかし、二十一日付の「中韓懸念の『つくる会』教科書」「政府『政治介入せず』」「中韓など反発必至」という記事を読む限り、素直には受けとれない。
中韓両国が懸念している教科書なのに、日本政府が政治介入しないことを批判的に報じた記事であり、両国の反発を期待しているように読める。
実際、中国は早くも二十二日記者会見の中で、日本政府にこの教科書の検定合格を阻止するよう求めた。
朝日の教科書報道をきっかけに、冷静な雰囲気は損なわれつつあるかもしれないが、教科書検定の担当者はこうした外部の声に惑わされることなく、粛々と検定作業を進めてほしい。
<2月22日産経新聞主張>
どちらも自分らのイデオロギーに結びつけるための無理矢理な論理展開ですな。ヘ(´_`)マターリイコウヤ
このページのトップへ
この文章への意見などを →掲示板で →メールで
|